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連載シリーズ「糖尿病専門医のワンポイントアドバイス」

 熱中症対策のポイントと注意点

はじめに

最近の日本の夏は異常です。まるで亜熱帯に来たようです。多くの方がそのようにお感じだと思います。加えて本年は節電対策もあって熱中症のさらなる増加が心配されています。糖尿病患者さんも十分な熱中症の対策が必要です。しかし、熱中症対策には注意点もあります。今回はこの問題を取り上げます。

とにかく熱中症が増えています

昨年(2010年)の6~9月に医療機関に搬送された熱中症の方は約5万6千人です。これは前年の4倍以上でした。死亡された方は約1700人で、2007年の約2倍でした。熱中症は毎年7月上旬から9月中旬に発症が集中しており、死亡された方の8割は高齢者で、屋内で倒れた方も多いのが特徴です。

そもそも熱中症とは?

熱中症は1つの病気ではありません。表1の4つの異常をまとめて熱中症と呼んでいます。まず「熱疲労」は汗をかいて体内の水分が減った時、水分の補給が不足した時に起こります。水分不足で脱水状態になると、頭痛やめまい、吐き気、嘔吐、脱力感などの症状を自覚します。「熱けいれん」は水分補給が十分でも、塩分の補給が少ない時に起こります。筋肉を正常に動かすには塩分が必須ですが、体内の塩分が不足すると、筋肉のつり(こむらがえり)や痛み、けいれんをきたします。「熱失神」とは文字通り、気が遠くなって失神するような状態です。直射日光が強い戸外や熱くて湿度の高い屋内で長時間活動していると、熱を皮膚から放散させようとして末梢血管が拡張します。これにより血圧が過度に低下すると、めまいや気が遠のく感じがして失神状態に陥ります。最後の「熱射病(日射病)」は死亡する可能性のある重症の状態で、病院で緊急の治療が必要です。これは脳で行っている体温の調節がもはや出来なくなっている状態で、体温は40度以上に上昇し、頭痛やけいれん、嘔吐に加えて、おかしな言動や意識障害をきたします。最悪の場合は死亡する危険性があるので、救急車を呼んで病院に至急搬送する必要があります。

表1.熱中症には4種類あります

一般的な熱中症対策は

熱中症は何も炎天下での活動だけで起こるわけではありません。屋内でも風通しが悪く、熱くて湿度の高い環境にいる場合、あるいはエアコンや扇風機を使っていても掃除や洗濯、料理中に起こることがあります。そこで熱中症対策として、次の点を心がけましょう。

表2.熱中症への対策

  1. こまめな水分補給を
    喉が渇いたと感じた時点ですでに軽い脱水です。定期的に水やお茶を飲みましょう。
  2. 塩分の補給も忘れずに
    汗をよくかいた時、筋肉が疲れたと感じたり、つったりした時はとくに要注意です。スポーツドリンク、塩分入りのタブレットやあめ類などをこまめに摂りましょう。
  3. 冷却シートの活用
    体温をもっとも下げやすいのは首の周囲です。襟元や首周囲を広げて風を当てやすくします。頸部に冷却シートをあてるのも有効ですが、凍らした保冷剤をタオルで巻いたものでも代用できます。
  4. 十分な休憩、休息を
    屋外での仕事や活動の際には適度な休憩をとりましょう。また、日頃から十分な休息、睡眠をとっておくことも大切です。

覚えておきたい応急処置は、①戸外の場合は涼しい屋内や木陰に移動させる、②衣服をゆるめて風通しをよくする、うちわや扇風機を使うのも有効、③冷たいタオル(出来れば保冷剤を中に入れて)で体をぬぐったり、首周囲や腋の下にはさむ、④嘔吐している場合は喉をつまらせないように、横向きに寝かせる、⑤水分や塩分を補給するが、意識を失っている場合は喉につかえて気道に入るとかえって危険なので控える、以上の5項目です。そして意識が低下している場合や異常に体温が高い場合は救急隊に至急連絡することが大切です。

 

糖尿病患者さんが注意すること

糖尿病で治療中の方にも、これまで述べた対策はとても大切です。しかし、同時に次のような問題点のあることを知っておく必要があります。

表3.熱中症対策の問題点

  1. 脳卒中や心臓発作が起こりやすくなります
    水分補給が不十分で脱水や血圧が改善されないと、血液が濃縮されて血の塊(血栓)ができやすくなります。これが脳や心臓の血管を詰めて、脳梗塞や心筋梗塞を起こします。動脈硬化が進行している方では要注意です。
  2. 腎臓の検査が悪化する可能性があります
    脱水の改善が不十分だと、腎臓の機能も悪化することがあります。糖尿病の正しい知識、第13回でお話した、「クレアチニン」という検査項目が上昇してきます。糖尿病による腎臓の合併症が起こっている方では要注意です。
  3. 糖分入りの水分補給は血糖を上昇させます
    糖分を多く含むドリンク類で水分を補給すると、血糖が上昇します。そうすると、尿に漏れる糖分が増加して、脱水がかえって悪化し、さらに喉が渇きます。そのため、ますます水分を多く摂ることにつながり、血糖がさらに悪化します。
  4. むくみや心臓の状態が悪化する可能性があります
    利尿剤は塩分を尿に捨てる薬剤です。水分や塩分補給が過剰になると、体内の水分と塩分のバランスが乱れて、利尿剤の効果を損なう可能性があります。

最初の2項目は水分の補給が足らない時に起こる問題です。すなわち、糖尿病では脱水や血圧低下がうまく改善されないと、合併症が悪化しやすくなります。従って、夏の時期には水分補給をこまめに行うことを心がける必要があります。また、糖尿病の内服薬の中には、脱水になると副作用が出やすくなるものもあります。その意味でもこまめな水分補給は大切です。

問題は後半の2項目です。水分と塩分の両方が摂れる便利なドリンク類として、スポーツ飲料がよく利用されます。しかしこの中にはブドウ糖や砂糖が含まれるものもあります。従って、購入時にカロリーや糖質の表示を注意して見ましょう。人工甘味料を使用したカロリーゼロのものはOKです。利尿剤を使用中の方は水分と塩分の補給にはとくに注意が必要です。むくみや心不全は体内に塩分と水分が過剰に貯まると悪化します。利尿剤は腎臓に作用して塩分を尿中に過剰に捨てさせる薬剤です。塩分の排泄に伴って、水分の排泄も増加するので尿量が増えます。熱中症の予防や治療として塩分や水分を補給することはとても大切ですが、補給が過剰になると利尿剤の作用を損なってしまう可能性もあります。従って、利尿剤を服用しておられる方は、塩分や水分をどの程度摂ったらよいかを主治医の先生とよくご相談されることをお勧めいたします。

おわりに

表1に示した自覚症状を感じた時には、すでに熱中症が起こっている可能性があります。そして熱中症は糖尿病の合併症を悪化させる引き金にもなります。従って、予防することが何より大切であり、今回のアドバイスが多少なりともお役に立てば幸いです。