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診察室からのメッセージ
第5回
結局は食事と運動?!
糖尿病治療の歴史は長く紀元前に遡りますが、糖尿病治療薬が一般に使われるようになったのはごく最近のことで、インスリンの歴史は80年そして内服薬では60年程度です。これらの治療薬が世に出たときには、おそらく「糖尿病を治す画期的な新薬」として受け入れられて大きな期待を集めたことでしょう。最近、これらと同様に期待を集めて登場した治療薬に「インクレチン作動薬」と言われるものがありますが、マスコミでも特集が組まれるほど画期的な新薬とされるものでした。この薬は、単に血糖を下げるだけではなく、今までの薬にはなかったこととして、「低血糖が起きにくいこと」や「体重が増えにくいこと」さらには「インスリン分泌を改善させる」といった特徴があるとされています。早いもので、もう発売されて1年半が過ぎましたので、実際に処方を受けた方もたくさんいらっしゃることと思いまが、実際に飲んでみた結果はいかがだったでしょう・・・?。おそらく、この薬の利点がそのまま得られている方もいれば、途中から効かなくなった方、血糖は下がっているものの体重は増えた方、はじめから全く効かなかった方など様々だと思います。これらの差はいったい何からくるのでしょうか・・・?。確かに、体質の違いから薬の効きやすい方もいればそうでない方がいるのも事実です。しかし、多くの患者さんを診ていて感じることは、生活習慣の改善が進まない方は薬が効きにくいことが多く、そういう患者さんほど新しい薬や治療法に期待しては裏切られることも少なくないということです。糖尿病治療の基本が食事療法と運動療法であることは広く知られていることですが、日常生活ではこれらのことがついおろそかになって、血糖コントロールが乱れることも良く経験することです。
ところで、生活習慣の乱れを是正することで血糖はどこまで良くなるのでしょうか・・・?。下のグラフは、HbA1c9%以上と血糖コントロールが非常に悪い状態で私どものクリニックを初めて受診された患者さんのなかで、直ぐにはインスリンを必要としなかった方を薬物は使用せずに生活習慣の改善のみで6ヶ月間の経過を見たものですが、想像以上に良くなることが示されています。なお、グラフの中の細い線は各個人毎の変化を、太い線は全体の平均の変化を示しています。指導を開始して3ヶ月までに大きく改善する方はその後も順調に経過して、6ヶ月後には正常に近いところまで到達していますが、3ヶ月までの改善がはかばかしくなかった方は最後まで改善されず、良くなった方の多くが積極的に生活習慣の改善に取り組まれた方でした。この様に、生活習慣是正の効果は大きく、代表的な糖尿病治療薬に引けをとらない効果を認める患者さんも少なくありません。
糖尿病は生活習慣病の代表と言っても過言ではなく、生活習慣の是正効果が大きいことは当然とも言えますが、2~3ヶ月ならいざ知らず長期にわたって教科書的な生活を強いることは現実的ではありません。特に、空腹感や眼前の誘惑との戦いは一生涯続くものですが、一部の糖尿病治療薬(インクレチン作動薬やαグルコシダーゼ阻害薬、メトホルミン)には生活習慣是正への前向きの努力や自制心を後押しする作用も有る事が知られています。このことは、糖尿病治療薬は最終的には血糖降下作用を発揮するわけですが、その過程には様々な作用があって、空腹感を和らげたり食事の満足感を維持してくれるような薬剤もあることを示しています。しかしながら、これの薬の効果を十分に発揮させるためには従来通りに生活習慣改善の努力が必要であり、今後の糖尿病の治療においては詳しい薬の作用にも興味を持ちながらの食事療法や運動療法の実践が重要となります。

遅野井 健(おそのい たけし)
| 1980年 |
弘前大卒 |
| 1984年 | 弘前大大学院終了 |
| 1984年 | 弘前大学第Ⅲ内科(現、代謝内分泌内科)入局 |
| 1985年 | 水戸協同病院 内科科長 |
| 1998年 | 那珂クリニック 開業 |
| 2003年 | 那珂記念クリニック 開業 |
学会等
日本糖尿病学会 評議員・専門医・研修指導医
日本病態栄養学会 評議員
日本糖尿病協会 茨城県支部副会長
那珂医師会理事
最近の著書、論文
『糖尿病レクチャー』インスリン治療と経口血糖降下薬の併用(総合医学社)
『糖尿病の最新治療』αグルコシダーゼ阻害薬の服薬指導(フジメディカル出版)
『糖尿病診療の将来の展望』糖尿病の診療システムが変わる:開業医の立場からー現状と将来展望― (医学書院)
『糖尿病ケア』(MCメディカル出版)




